ターニング・ポイント

3/8
前へ
/314ページ
次へ
 自分でも不思議なくらい、サスケに対して強く、幸せにしてあげたいと思ってしまうのだ。弱者に対する同情なのか、自尊心を埋めるための行動なのかと考えもしたが、乾太郎が「それが優しさだよ」と言ってくれたから、月は少しだけその気持ちを前向きに持っていけた。  その日は、ずっとサスケに付きっきりになって、見守っていた。夜寝るときも、自分の自室にサスケのケージを置いて、寝床にしてあげた。  この方が、何かあった時、すぐに動けるし気が付きやすいからだ。  結局その夜、サスケと一緒にベッドに眠ることになったのだが、思ったよりもサスケは月に懐いてくれていると分かって嬉しくも思った。  やがて、月は、深い深い眠りに誘われて、静かな寝息を立て始める頃。  乾太郎は暗い部屋の中で身体を起こし、そっと月が眠る寝室のドアを開いた。  ぴくりと、黒猫が顔を上げた。どうやらサスケは起きていたらしい。しかし、月はすやすやと熟睡していて、起きる気配がない。  乾太郎は、サスケに目配せをして、そっと寝室の中に入ると、月が眠るベッドに腰かけて、月の頭をそっと撫でた。  柔らかく艶やかな月の髪を、愛でるように撫で、乾太郎はただただ静かに、月を見つめ続けた。 「……オレにきみのことを、愛する資格があるんだろうか」  ぽつりと、零れ落ちた切なく低いその声は、まるで懺悔のようにも聞こえた。 「ニャァ」  サスケが小さく鳴いた。それを聞いて、乾太郎は哀しそうに笑んだ。自虐の笑みが浮かんでいた。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

577人が本棚に入れています
本棚に追加