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召使いのように首を垂れるあやかしは、畏怖を纏わせて、その男へと、チラシを差し出した。
それは、月が配っていた『あやかしインベスティゲーション』のチラシだった。
男はそのチラシを握りつぶし、喉の奥で、クク、と嗤う。
「ようし、その女、ここに連れてこい。この俺が直々に確かめてやる」
「か、畏まりました。酒呑童子さま!」
狂暴な牙を思わせる犬歯をぎらりとさせて、酒呑童子と呼ばれた鬼は、あやかしインベスティゲーションの調査員だという若い女にその目を光らせていたことを、当の本人たちは知ることもなかった。
そしてこの事件が、月と乾太郎にとって、あまりにも大きな事件になることも、またこの時は欠片ほども予想できなかったのである。
「楽しみだぜ……!」
マヨヒガの最上階で、紅い髪を炎のように靡かせて、男は握りつぶしたチラシを灰に変えた――。
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