酒呑童子の依頼

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 すると、五階に到着するタイミングで、若い女性がエレベーターに乗り込んでくるらしい。  その人物と決して会話をしてはいけない。  そして、一階のボタンを押し、その女性と共に降りようとすると、なぜかエレベーターは一階に下るのではなく、上り始めるというのだ。  そして、十階で扉が開くと、そこはもう異世界に迷い込んでいて戻ってこれなくなる。そんな都市伝説だ。  その都市伝説そのものが、あやかしと成った存在。五階で乗り込んでくる若い女性。  それが森岡奈和なのである。  つい最近生まれたばかりの若いあやかしである奈和は、あやかしの中でもまだ弱く、マヨヒガへの案内人として働いているらしい。  あやかしって、そんな最近でも新しい存在が生まれているんだなぁと、月は少しばかり驚いていた。  てっきり、古くから伝わっている伝承の中の、一つ目小僧とか河童とか、そういうものがマヨヒガであやかしとして生活しているのだと思った。そういう歴史を積んだ古の幻想が、あやかしなのだと思い込んでいたから、近年に生まれたばかりという奈和に、少しだけ親近感がわいた。  奈和は、最近だと、『きさらぎ駅』の駅長も若いあやかしですよ、と教えてくれた。     
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