酒呑童子の依頼

5/12
前へ
/314ページ
次へ
 マヨヒガ行の地下へと下る異世界エレベーターに乗り込んだ月は、幻想的な音楽と照明の中、奈和の異世界エレベーターの話を聞きながら、下っていくエレベーターの電光板の数字を見ていた。  マイナス六十を示すとき、扉が開き、マヨヒガの入口に到着するエレベーターは、搭乗時間が地味に長い。  いつもは六十階になるまで、そのエレベーターの扉が途中で開くようなことはない。  しかし――。  チン。  数字がマイナス五十を示した時、エレベーターの動きは止まった。そして、扉が開く。 「え?」  初めてのことに、月は驚いていた。まさかマイナス五十階で止まり、途中で扉が開くとは思っていなかったのだ。 「よくやったぞ、奈和」 「は……はい……」  扉の先から、男の声がした。その声に、奈和は恐縮しきった様な、怯えたような声で微かに返事をした。  ずかずかと、大柄な男がエレベーターに乗り込んでくる。外見は三十くらいだろうか。厳格な表情をした男は鼻下に髭を蓄え、頭には黒い帽子をかぶっている。服装も黒で統一されていて、きちんとした身なりではあるが、それはとても威圧感のある警官の服か軍服にも見える。  その男は、月の前までくると、白い手袋を付けている右手で、月の顎をくい、と持ち上げ、強引に顔を確認した。 「な、なにするのよ」  思わず、月はその手を払った。あまりにも無礼な男性だと怒りすら滲んだ。 「奈和さん、誰この人」     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

577人が本棚に入れています
本棚に追加