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何やら事情を知っているらしい奈和に声をかけたが、奈和は月を見ずに視線を逸らし、怯えているように、エレベーターの隅で固まっている。
「ごめんなさい……」
そして、小さくそれだけ呟いた。
奈和は、明らかにこの男に怯えているらしい。そして、どうもこの状況を組み立てたのは、奈和本人らしかった。おそらく、この男に無理やり命じられてのことなのだろうと察した。
「なんなの、あんた」
月は気丈に、その男に鋭い目を向ける。体格差もはっきりしているし、男の雰囲気は並々ならぬものがあり、威圧感がある。
月は、内心恐れもあったが、怯えてきゃあきゃあ泣きわめくタイプでもないと、軍人のような男に対して強気にふるまって見せた。
ただ、明らかな敵意は感じていた。逃げ場のないエレベーターの中、背中を壁に預ける。
「生意気な口を閉じろ」
凄味を見せる男に、月は言い返すことができなかった。
やばい、と思ったのだ。ここでなんらかの抵抗をすると、危険だと思った。
自分ではなく、奈和に危害が及ぶように思ったのだ。
「大人しくついてこい」
「……どこに行くの?」
「黙って従え」
「……」
有無を言わさぬ男に、月は従うよりなかった。開いたままのマイナス五十階で停止しているエレベーターから男と共に降りると、エレベーターは扉を閉じた。
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