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その名前は聞いたことがある。鬼だ。日本の三大妖怪として知られる有名な鬼の名。
かなりの大物のあやかしに違いないだろう。纏っている雰囲気が違うと、月ですら分かる。
そろりと近づくが、頭の中で、ものすごい危険信号を発していた。この男に近寄るべきではない、と。
しかし、酒呑童子と呼ばれたその男の気配には弱者をひれ伏せるエネルギーが込められているような力がある。
恐れながらもゆっくりと近づく月だったが――。
「じれってェ」
がばりと座っていた男が立ち上がり、そのまま月を捕まえようと接近してきた。
月は思わず身体を庇うようにして、腕で防ぐが、その細い腕を強い力で乱暴に捕まれ、胸の前で交差させていた腕を開かせ、持ち上げられる。
「いたっ」
「顔を見せろ」
「は、放してよ!」
抵抗をしようと、掴まれている腕を動かそうしたが、ビクともしない。痛みから瞼を閉じて顔を逸らしていた月の頬に手を添え、鬼の男はその顔を自分の正面に向けさせた。
(かんたろ……たすけて、かんたろ……!)
心の中で叫ぶ月の耳元で、男が獲物を食らう狼のように、牙を覗かせ嗤う。
「そう怯えるなよ、あやかしインベスティゲーションにちょっとした依頼があるんだ」
「い、依頼……?」
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