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このまま襲われて喰われてしまうのかとすら思っていたが、まさか依頼を申し出てくるとは思わず、月は目を開けて、間近に迫っていたその男の顔を、はっきりと見た。
男のかんばせは、粗野な印象を浮かび上がらせる鋭い瞳と釣り上がった目尻。しかし対照的に細く整った鼻は高く、唇には妖しい艶めかしさすらある。
髪の毛と同じように、灼熱のような瞳の色をしているのが印象的だった。
乾太郎とは似ても似つかぬ顔立ちではあったが、この男もまた、整った容姿をしていた。鬼というより、ギラリと光る名刀のようだ。
「そういう仕事してンだよな? 報酬はたっぷりと支払うぜ?」
そう言うと、大げさな態度で腕を広げ、部屋を埋め尽くさん限りの財宝をアピールする。
「……名前も名乗らない人の依頼なんか、受けない」
「はッ! この俺を知らないと来たか! 酒呑童子の四十万飛燕だ。二度と忘れるな」
剛毅な態度で名乗る飛燕は、月の掴んでいた手を放し、そのまままたどかっと腰を下ろして座り込む。
「……依頼を断ると言ったら?」
「別に構わねぇよ」
「なんですって……」
「てめぇが依頼を受けようが受けまいが、どっちでも構わねえ。ただまぁ、話くらいは聞いて行っても損はねえだろう?」
「……」
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