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どういうことなんだろうと、月は訝しんだ。こんな誘拐まがいの方法で、ここまで連れてきておいて、依頼のことはどうでもいいと言ってのける飛燕の真意が計れなかった。
「まぁ座れよ。話を聞くまでは、帰すつもりはないんでな」
「……分かった。聞かせてもらおうじゃん」
膝を立てて座り、崩した姿勢で月にニタリと笑んだ飛燕は面白そうに目を見開く。
月は正座で座り、太々しい鬼に真っ向から向き合った。
「調査してもらいてぇのは、とある巻物だ」
「巻物……?」
「俺の秘蔵の絵巻物だ。それがどうやら人間の手に渡っちまったらしい。その人間を見付けろ」
「依頼を受けるとは言ってない。命令しないで」
「威勢のいい女だな。嬲られたいのか?」
「どうでもいいと言ったのは、そっちでしょ」
飛燕が、凍り付くような眼光を向けてきた。気圧されたくないという一心で、月はその飛燕の目を真っすぐに見つめ、睨みつけて見せた。
「まぁ、そうだな。ぶっちゃけちまうと、どうでもいい。それほど取り戻したいって巻物でもねぇしな」
「だったら、依頼なんかするんじゃない」
「クク、俺を前にして物怖じしないのは、意外だったぜ。楽しめたよ、お嬢ちゃん」
(舐めやがってこんにゃろう……!)
こっちを見下して、どこまでも高圧的だ。実力者なのだろうが、気に入らない男だと月は心の中で悪態を吐く。
「おい、お客さんのお帰りだ」
「ハイ」
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