憂きに堪へぬは 涙なりけり

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「そ、そうですか……もし雲母さんに何かあったら、勘解由小路さんになんと伝えたらいいかと……」  擦り切れてしまいそうだった精神がやっと落ち着いたのだろうか。奈和は、ようやく表情に安堵を浮かべた。  勘解由小路……つまり貧乏神の乾太郎も、奈和にとっては十分大きな存在だろう。大御所のあやかしの板挟みになって苦悩するのはさぞ神経を使っただろう。 「……そう言えば、かんたろの奴……助けに来てくれなかったなぁ」  困ったときは呼べば助けに飛んでくると言っていたのに、あの窮地の場面で乾太郎の名を心で叫んでも、乾太郎は来てくれなかった。 「それは仕方ありませんよ。勘解由小路さんでも、相手が四十万さまともなれば、格上になります。酒呑童子さまの結界の中では貧乏神の加護も打ち消されてしまうはずです」 「結界?」 「はい、酒呑童子様のおわすあの部屋のことです」  どうやら、四十万のほうが乾太郎よりも強いあやかしらしい。貧乏神の加護も、四十万の部屋の中では無効になるようだ。  となると、本当に厄介な相手に目を付けられたと月は腕を組んだ。 「そもそも、どうして私に、大妖怪が?」 「分かりません……。人間が来ても、普段はまるで気にしません。下々の妖怪に対しても、基本的には目を向けることはないのです」     
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