憂きに堪へぬは 涙なりけり

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「相手を見下したあの態度だと、下の人間のことなんて、どうでもいいってタイプだろうしね」  ならば、本当に依頼が目的だったというのだろうか。  彼は絵巻物が紛失したと言っていた。その在処を突き止めろと傲慢な態度で命令したのを思い出す。 「本当に、百鬼夜行の妖怪絵巻を見付けてほしかったのかな」 「あの……勘解由小路さんに伝えておくべきだと思います。四十万さまは、上手く言えないのですが、やはり雲母さんが目的のように思います」 「……かんたろに相談か……」  少し、悩んだ。  このことを乾太郎に伝えるべきなのか。無理やりではあるものの、乾太郎との約束を破ってマヨヒガの上層階に入ってしまったことを伝えた時、乾太郎がどんな反応をするのか分からず、怖かった。  さっき、飛燕に捕まれた手首がまだ少し痛い。  これに似た痛みを、月は覚えている。階段に興味を示した月を抑え込んだ乾太郎もまた、月の手首をつかみ、上に行くなと鬼気迫る表情で忠告したのだ。  月は、これまで出逢ったあやかしが、あまりにも親しみやすい人物ばかりだったから、油断をしていた。  まさか、あんなにも狂暴なあやかしがいるとは思わなかったのだ。鬼は元来、畏怖の象徴だ。あやかしとは、畏怖、怪異、不気味で理解の範疇から外れた存在と思い出させてくれた。     
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