憂きに堪へぬは 涙なりけり

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 月は異世界エレベーターで、地上に帰ると、奈和に別れを告げ、前におみくじ調査依頼を受けた時の神社へと向かった。あそこは神聖な雰囲気があって、静かだ。思案するには丁度いいかもしれないと思った。  外に出ると、空にはうっすらと月が浮かび上がっていた。透明な、蜃気楼みたいな月だった。もうすぐ黄昏時がやってくる時刻だ。  フクロウの親子の像があるところで、月はスマホを開き、ブラウザ画面を立ち上げた。検索サイトで『百鬼夜行絵巻』を検索する。  百鬼夜行とは、魑魅魍魎やあやかしが夜中に大行進をしているさまを指すらしい。無数のあやかしたちが、夜明けまで暗い夜道を闊歩する。その光景を描いた絵巻物は、日本の至る所に現存しているらしいのだ。 「沢山あるんだ。百鬼夜行の巻物って」  だとしたら、発見するのは困難だ。どれが飛燕が指定した絵巻物か判別がつかない。  室町時代から大正時代ごろまで数多く制作されたとウェブページに記載されている。模写や転写されたような巻物もあるらしく、好事家たちが集めていたり、海外にも所持者がいるようだ。 「海外なんて行けないしなぁ」  所持金は、もうゼロに等しい。  移動範囲は池袋から大学までの定期の範囲のみだ。そんな範囲で、酒呑童子が持っていた百鬼夜行絵巻を発見するのは――。 「無理難題ね」  ふう、と一息重く吐き出して、その後、冷えた空気を肺に取り入れる。     
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