憂きに堪へぬは 涙なりけり

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 どんよりとした纏まらない思考と、スマホを弄る指先はオートマチックに動いていた。  そして、視界は、それを捉えた。 「あ、この絵」  それは百鬼夜行絵巻の画像データだった。  その画像に既視感があった。どこかで見た気がする――。 「っ――、そうだ! 天井の妖怪の絵だ!」  異世界エレベーターで降り立ったマヨヒガ最上階の天井に描かれていた多数の妖怪。あれと同じものが、画像として表示されていた。 (これかも!)  その画像をタップし、細かく情報を読み解いていく。  絵巻物だけあって、横に長く描かれている妖怪の大行進の描写はおどろおどろしくも、どこか珍妙にも見える。描かれている妖怪の姿は不思議と愛着があった。  ポタリ。 「あれ」  水滴が、スマホのモニターに落ちた。雨でも降り始めたのかと、月は見上げて、月がうっすらと浮かぶ雲のない空が、滲んでみえたことに気が付いた。  頬が濡れている。 「え? ……なんで、私……泣いてるんだろ」  ぽろ、ぽろ、ぽろと。  丸い粒が光を孕んで、零れ落ちていく。それが伝った頬は、熱くて、濡れている。  奇妙な感覚が、月を包み込み、胸が妙に締め付けられていく。  悲しみだ。この感覚は、悲しいという感情だと、月は自分の心の中をもう一人の自分がいるみたいに冷静に判断していた。     
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