心の余裕をくれるモノ

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心の余裕をくれるモノ

 月が帰宅したのは十八時を過ぎた頃だった。  部屋に帰ると、乾太郎が普段と変わらない様子で、「おかえりー」とノンビリした声をかけてくれた。  月はできる限り、何もなかったように演じて、普段の調子でただいまと取り繕った。  リビングには、サスケがちょこんと座っていて明後日の方を見ている。サスケが犬だったら、主人の帰宅に反応して、飛びついて来たのかもしれないが、どうにもこの黒猫はマイペースに、月のことなど何処吹く風である。  それが返って、今の月には救いだった。サスケを抱きかかえて、毛並みを撫でると、サスケは少し迷惑そうに顔を逸らした。 「夕飯、できてるよ」 「いつもありがと、かんたろ」 「……? いえいえ、どういたしまして」  月が、明るく礼を述べると、乾太郎は少し間をもって、苦笑した。 「大学で何かあったのかい?」 「なんで?」 「なんかあったって、顔に書いている」  人差指を躍らせながら、乾太郎はおどけるように言った。どうやら、月の様子がおかしいことは、見抜かれてしまったらしい。しかし、その原因までは知りえていないようだ。     
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