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その理由を、乾太郎は大学生活での問題と思っている様子だったが、涙を流していたことは事実だ。それを気取られたくなくて、部屋に入る前にしっかりと鏡で自分の顔をチェックしたはずだったのに。
乾太郎は、そのまま、両手を月の腰に回し、ぐい、と自分の胸の中に引きこんだ。
抱きしめられて、月は、とたんに胸が高鳴り始めて、身体の中に火が灯る。
「か、かんたろ」
「キララちゃん……。オレが、寂しさを消してやるから」
「さ、寂しくないよ、私……大丈夫」
「ルナって呼んでいい?」
「え……」
「ルナ」
下の名前で呼ぶなんて恥ずかしいと最初に言っていた乾太郎が、慈しむような声で月の名を呼ぶ。抱き寄せられて、目の前にある乾太郎の顔は、真っ赤だった。多分、月よりも。
「ダメかな」
「……いい、よ。私、最初からかんたろって、呼び捨てだし」
「ルナ」
がばっと、抱きしめられた。
優しい抱擁のなかで、乾太郎の想いが包みこんでくる。優しく、愛情がたっぷりの、気持ちいい空間が生まれていくのが分かった。
(乾太郎を疑うなんて、バカだった)
そう自分を叱りたくなる。こんなにも、自分のことを熱く抱いてくれる人は、他に居ない。
彼を信じられないなら、この世のなにもかもが嘘っぱちにしか見えないだろう。
そっと瞳を閉じて、月は乾太郎の胸に顔を寄せて、身体を預ける。
「かんたろ……」
「ルナ……」
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