心の余裕をくれるモノ

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 コトコトと、鍋が音を立てている。弱火にかけられたカレーはゆっくりと煮込まれていく。 「泣かせて、ごめん」  抱きしめている乾太郎の手が、そっと髪を愛撫してくれた。よし、よしと、ゆっくり彼の大きな掌が、月の頭を撫でてくれる。柔らかいものを、清らかなものを、壊さないように、汚さないように。そんなゆったりとした抱擁が、月の心をほぐしてくれる。  お金のこと、鬼のこと、知らない間に溢れた涙のこと。色々なことがあって、月は本当に参っていたのだ。  精神がすり減っていたのは間違いない。そうじゃなければ、こんなにも自分を慈しむ人のことを疑ったりしない。 「かんたろ、私……あんたのこと……」  好き、と言いそうになった。  でも、その気持ちに向き合うことは怖くて、恥ずかしくて、切なかったから、言わないで飲み込んだ。  心の中をみんな、乾太郎に差し出したわけじゃない。彼には隠し事をしている。乾太郎に真実を告げることができない月に、そんなことを言う資格なんてないように思った。 「カレー、火、止めないと……」 「もう少し」  月は、乾太郎に鍋の火を止めるように言って、離れることを告げたが、乾太郎はまだ放してくれなかった。  サスケが、二人を見ていた。     
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