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あやかし恋慕
美味しいカレーを食べ終えて、月と乾太郎は、なんだかぎこちなくだが、恥ずかしげにそっと二人寄り添った。
胸が高鳴っていた。月と乾太郎は、ソファに二人で並んで腰かけている。
なんだか自然とそうなった。乾太郎に抱きしめられてから、ずっと、恥ずかしくて仕方なかった。
夕食のカレーがあった時は、カレーを食べることに集中出来ていたから、その恥ずかしさを誤魔化す手段があったのに、そのカレーが美味しすぎてペロリとあっという間に平らげてしまったのを、今は少し後悔している。
「ルナ?」
「っ……、な、なに?」
下の名前で呼びたいと言った乾太郎に、いいよと答えたのは月本人だ。
しかし、こうして、傍で聞く乾太郎の唇からまろびでた甘い囁きが、自分の名前を奏でているが、どうしてこうも恋しく思ってしまうのだろう。
(私――、かんたろのこと……、好きになってるの?)
隣の乾太郎をそっと見ると、彼もまた、紅葉を散らしたような顔をしている。
恥ずかしそうに形の良い眉が折れ曲がっていて、それでも吸い込まれるような瞳は、熱いほど真っすぐ、月を見つめていた。
「下の名前で呼ぶの、恥ずかしい?」
「……バーロー、てやんでえ」
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