あやかし恋慕

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 乾太郎は、見た目はかっこいい。優しいし、なんでもしてくれる。でも、それだけで人をこんなに好きにならない。  月はそう思っていた。  しかし、慕情が芽吹く理由なんて、理屈で説明がつくものではないものだろう。 「ねえ、ルナ。また抱きしめてもいいかな」 「……だ、だめ」 「どうして?」 「ど、どうしてって……」  二人は恋人同士というわけではない。これ以上乾太郎に抱きしめられたら、色々と超えてはならないラインを超えてしまうと思った。  男性と、同棲しているという感覚が途端に、濃密さを増すようで、月はしどろもどろになってしまった。 「も、もう眠たいから、私、寝るの」 「だったら、これならどうかな」 「へっ?」  ぐい、と乾太郎が月の肩に手を回して、抱き寄せる――かと思いきや、そのまま月はコテンと上体を倒されて、乾太郎の膝の上に頭を乗せることになった。  つまり、膝枕の体勢だった。 「ここで、寝ていいよ」 (寝れるわけがない――っ!) 「眠ったら、きちんとベッドまで連れて行ってやるよ。オレ」  乾太郎の膝枕の上で、月は身を固まらせてしまって、言い訳すらできないくらい舌も回らない。 「……寝て、いいよ。ルナ……」 「か、かんたろ……」     
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