あやかし恋慕

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 そっと、乾太郎の掌が月の頭に添えられた。撫でられるのではなく、包む様に、護るように彼の手は月の頭に触れていた。  本当に――心地よく、安心できる乾太郎の膝枕の上で、月は慈愛に包まれるようにして瞼を下ろした。  神様のご加護なんて実感したことはないけれど、今こうして、自分を庇護してくれる確かな人のぬくもりだけは、感じ取れる。  乾太郎は、膝の上で眠る月の長い髪の毛を人差指ですくい取るように避けて、月の耳を確認すると、身体をそっと折り曲げて、月の耳元で、低く柔らかい声色で、囁いた。 「おやすみ……、ルナ……」  月は、この幸福も、貧乏神が与えてくれる能力によるものなのかと考えながら、心地よい世界に包まれて身体を預けていく。  お金以外はなんでも与えてくれる貧乏神の責任のため、こんなに尽くしてくれるのだろうか。  そんな責任感で、あんなにも赤らんだ恥じらいの顔を浮かべるだろうか。 (ちがうよね、かんたろ……。かんたろも、きっと――)  お互いの想いがくすぐりあいをしているような、むずむずする嬉しさと恥ずかしさが胸をトクトクと脈打たせてくれる。  いつしか、月は愛くるしい子供みたいに無防備な寝顔を見せていた。  乾太郎は、そんな彼女の寝顔を幸せそうに見つめ続けていた――。   ◆◇◆◇◆     
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