あやかし恋慕

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 ――深い悲しみが、呼吸をも止めてしまうのではないかと思うほど、魂の鼓動を締め付けていた。  どうして、そんなに悲しんでいるのだろう? 絶望しきっているのだろう?  涙が溢れて止まらない理由が、月には理解できなかった。  しかし、どうしようもなく、苦しく、やりきれない気持ちが全てを支配していることがはっきり分かる。  月は縋り付くように、小さな少女を抱きしめていた。その少女は白いベッドに横たわり、今にもその命が散ってしまうような状況だ。 「この子を、たすけたいのです」  月は口を開き、訴えた。 (あれ……これ、私、なの?)  月は、自分が抱きしめている意識を失っている少女を見て、気が付いた。  その少女は、幼い頃の月だった。  では、今、『幼い自分』を抱きしめている『自分』は何者なのだろう?  この子をたすけたいと、心臓がねじ切れてしまうような罪の痛みを感じて苦しむ、この心の持ち主は、誰なのだろう?  そして――、助けたいと訴えている相手は、どうして、貧乏神の乾太郎なのだろうか?  月は、この状況に違和感を覚えながら、まるで演劇を見ているように、その世界に流されていく。  周囲を確認すると、どうやらここは病院の医療室のようだった。     
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