百鬼夜行の一番『後ろ』

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百鬼夜行の一番『後ろ』

 罪悪感というものを、月はその日初めて感じた。  乾太郎に、大学に行くと告げながら、胸を刺す痛みを必死に顔に出さないようにするのが精いっぱいだった。 (ごめんね、かんたろ。……でも、自分でもよく分からないけど、何かが、ざわつくんだ)  奇妙な感覚が焦燥感を掻き立てていた。理屈では、行くべきではないし、このことを乾太郎に伝えたほうが良いと分かっている。  しかし、忘れてはいけない何かを忘れてしまったという感覚が増大していた。  月は、大学に向かうのではなく、異世界エレベーターの奈和の元へと向かっていた。もう一度、マヨヒガの最上階に連れて行ってもらうために。 (何か、本当に忘れちゃいけない何かを、忘れている……。そして、きっとそれを、かんたろは知っているんだ)  乾太郎は二階に行くなと言った。マヨヒガの上に向かえば、何か都合が悪いことがあるのだ。  そして、酒呑童子の四十万の依頼。  マヨヒガの最上階で黒服の男に連れられてやってきた時、酒呑童子の名を聞いて、月は一つ、心の中に引っかかりを覚えていた。  それをずっと考えていたのだ。  何か、違和感のようなものがあった。     
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