百鬼夜行の一番『後ろ』

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 異世界エレベーターのあやかし奈和は、酒呑童子さまと恐縮して呼んでいた。あの黒服のあやかしも、酒呑童子さまと緊張した声で呼んでいたはずだ。  酒呑童子は、マヨヒガの最上級に暮らす日本三大妖怪の大御所だ。彼の結界が張られた部屋は、貧乏神の加護をも無視する強力な力場だそうだ。  事実、乾太郎は、あの時助けには来てくれなかった。奈和が語るには、貧乏神とは言え、酒呑童子には敵わない。上に君臨しているのが、四十万飛燕というあやかしなのだから。  乾太郎よりも、四十万飛燕のほうが上位の存在だ。  多くのあやかしは、酒呑童子を恐れ、その名を畏怖を込めて呼ぶ。対面した時にも思ったが、四十万にはそれだけの威圧感があった。 (でも……かんたろは、あの時――、『酒呑童子』を呼び捨てにした)  月は、違和感の正体に思い至ったのだ。  月が四十万と対面するよりもっと前、乾太郎の口から『酒呑童子』の名前を聞いていた。  それは、蔵馬の依頼の最中だった。スマホを弁償することになって、怒り心頭であった月は、ストーカーを捕まえることに息巻いていた。  そして、いざ犯人候補を発見し、詰め寄った時、乾太郎は言ったのだ。  ――それじゃ酒呑童子も怯えて竦むよ――と。  その発言は、今にして思うとおかしいと気が付いた。     
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