百鬼夜行の一番『後ろ』

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 酒呑童子はマヨヒガを利用するあやかしたちの間では絶対の強者である様子だった。その実力は貧乏神をも超越している。  乾太郎とて、酒呑童子には唾を吐けない相手のはずだ。  しかし、乾太郎は、酒呑童子の名前を呼び捨てにしたうえ、『怯えて竦む』とまで言ったのだ。  奈和や黒服のあやかしの態度を見ても、酒呑童子にはそんなことを口が裂けても言えないだろう。  それが月が感じた違和感だった。  乾太郎は、『酒呑童子』を何かしらで意識しているのだと、感が告げていた。  月にマヨヒガの上に行くなと言ったわけも、そこに繋がるのだろう。  酒呑童子の狙いは不明だ。乾太郎の思惑も見えない。  しかし、はっきり月が感じているのは、『縁』があるという感触だった。  百鬼夜行絵巻を見た時に、そしてあの妙にリアルな夢を見た時に、月はその『縁』に触れた。  それは決して忘れてはいけないもののはずなのに、月はすっかり忘れ去っているということだけは明確に分かっている。 (私……、かんたろのこと、好きだ)  池袋の街を進み、展望台エレベーターまで向かう途中、月は改めて確認した。自分の気持ちを。  彼と過ごして数週間、まだまだであったばかりなのに、彼に惹かれていく想いをもう、誤魔化せなくなっていた。     
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