百鬼夜行の一番『後ろ』

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「月さんっ! 月さん、しっかり!」  欠けていた物が、なんなのか、月は脳裏にフラッシュバックする数多の映像に頭を抱えてうずくまった。  奈和はどうしていいか慌てながら、月を懸命に呼びかけた。 「思い出したか?」  背後から、強力な気配と共に男の声がする。  月はその声にも反応できず、うずくまり頭を抱えて苦しんでいた。怯えて固まった奈和は、その声の主を見て、青ざめる。 「四十万さま……!」 「その反応……。まさかとは思ったが、情報は確かだったようだな」  苦しむ月を見て、飛燕は面白そうに口の端を吊り上げた。鋭い犬歯がギラリと光る。 「人間の娘となって再会するとは思わなかったぜ、空亡(ソラナキ)」  ――『ソ・ラ・ナ・キ』。  その名を呼ばれ、月はがくりと崩れ落ちた。気を失い、身体を床に投げ出して無防備になった月を、酒呑童子は見下ろしていた。  月の上には、真っ赤な夜明けが大きく描かれ、それは太陽と呼ぶより、巨大な禍々しい存在にも見える。  百鬼夜行の最後尾の下、月はまた、夢と現の境で記憶の映像を見ていた――。
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