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最強の妖怪『空亡』
ふわふわとした感覚のなか、その小さな存在は温もりが身体を抱きしめるのを感じて目を開いた。
生まれて初めて目を開いた彼女に飛び込んで来た光景は、昏い夜の幕に光の一筋が走る夜明けの瞬間だった。
「太陽が昇るんだ」
夜が終わり、今この瞬間から朝が来る。そのきりかわりの瞬間に、彼女は生まれた。
彼女の名を、『空亡』といった。
小さな生まれたばかりのあやかしである空亡は、この世に生まれたことを素直に、純粋に喜んだ。
あやかしの誕生は、人々の世が語り継ぐ伝承から発生する。
空亡もまた、そう言った人々の口伝から生まれ落ちたあやかしの一人である。
あやかしは、生まれながらに、自分の姿と名前、どのようなあやかしなのかを、人の世が形作っているため、誕生と同時にしっかりした自我を持って生まれてくるのだ。
空亡は、小さな少女の姿ではあったが、立派に人々の口伝をもとにして形作られたあやかしであり、その名もまた誇り高く自覚していた。
あやかしの世界の片隅に生まれた空亡は、自然とマヨヒガに向かう。生まれたばかりのウミガメが、砂浜から海へと向かうように、自然にそう行動するようできている。
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