ようこそ、ボンビーガール

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「そう言われても、今までの利用者はみな、そうだったとしか」 「…………」  大家である初老の男性はどこか太々しいとも言えるほど、当たり前のことのように、そんな事実を口にした。  格安の物件があると紹介されてやってきたこのマンションの一室。  八階建てマンションの四階の二号室。そこだけが極端に安い値段で設定されている。なのにその費用を払いきれなかったというのだ。  あり得ない話だが、月にはその情報の真偽を確かめる術がなかった。  あるのはただ、家賃月々四万円。  1LDKの広い部屋。それだけだ。清潔な印象のその部屋には何か問題があるようにも思えない。 「……分かりました。私、ここに決めます」 「本当に良いんですか? 一応義務があるので言っときますが、この部屋は普通じゃないんですよ」 「普通じゃなくても、この立地でこの値段なら目をつぶれる。契約します」  月は覚悟の上、この月々四万円の部屋を契約した。  引っ越しは二週間後。  高校を卒業し、これから都内の大学に通う月にとっては、この部屋は魅力的過ぎた。それに四万程度ならアルバイトでも十分払える。貯金だって十分あるので、暫くは働かなくたってどうにかなる。  なぜ、以前の住居者がそれを払えなかった疑問はあるが――。     
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