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何でもよかった。男が、何かに対して懸命に努力をすればそれで良かった。しかし、それは日がかさむにつれて縁遠くなる。
――嫌になる。
こうなると、貧乏神もただただ苦しいだけだった。努力を始めるためのヒントは至るところに散りばめられているのに、男は完全に視野が狭まっていて、どうすれば楽に生きていけるのかを追い求めている。
乾太郎は思う。
楽に生きようとするのではなく、楽しく生きようとすることが大切なのだ。
楽しく生きていくには、努力がなくてはならない。人の楽しさは努力が報われた時に勝ち取ることができる褒賞なのだから。
およそ一か月――、男が破滅するまでの間、乾太郎はその男に憑き続けた。結局男は自分の人生を悔い改めることはなく、ただただ真っすぐ落ちていった。
やるせない想いを抱え、乾太郎はマヨヒガへと帰った。久しぶりにマヨヒガへと戻った時、あの生まれたばかりだと言っていた幼いあやかしを思い出した。
あの純粋な笑顔をもう一度見たいと、乾太郎は、空亡に会いに行くことにした。
久しぶりのマヨヒガで、空亡を捜していると訊ねると、誰もが奇妙に口を噤んだ。
どういうことだと訝しみながら、マヨヒガの中を捜し回っても、空亡の姿はどこにもない。
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