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一体どこへ行ってしまったのだろう。そしてマヨヒガを包む奇妙な空気感はなんなのかと、乾太郎はあやかし協会の事務所を訪ねた。
あやかし協会の鴉天狗を適当に一人捕まえ、空亡の名前を口に出すと、鴉天狗は強張った顔をして、舌を縺れさせて汗をかく。
明らかに何かあったのだと察した乾太郎は、半ば強引に、鴉天狗に詰め寄った。鴉天狗の名前は山田といって、周囲の様子をしきりに気にしながら、声を潜めて、空亡のことを乾太郎に伝えた。
「――あの子は、あやかしではありませんでした」
「なんだって?」
「ですから、空亡なんてあやかしは、いないんですよ」
意味が分からない。あの時出逢った少女姿のあやかしは、どう見てもあやかし特有の気配を持っていた。乾太郎とて神のはしくれだ。相手がどれほどのあやかしかは見抜ける実力はある。
あの空亡があやかしではない、ということは、あり得ないと言いきれた。
「マヨヒガ全体の空気が妙だ。みんな何かに怯えているようだぞ。何かあったのか」
「勘解由小路さん、あまり大きな声で話せる内容じゃないんです」
「……他言はしない」
「酒呑童子様が……、空亡を排除したんです」
「な、なんだって!?」
乾太郎は思いがけず大きな声が出てしまった。それを慌てた様子で山田が口を押える。
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