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自分のことを苗字で呼ばれることを訂正しようかと思ったが、もうなんだか面倒になったので、月はそのまま受け入れた。そして、消え入るような小声で、貧乏神の名を呼んだ。
すると乾太郎は、ぱっと笑顔を浮かばせ、犬みたいにキラキラな目でおやすみの挨拶をするので、月は寝室に戻ってから、「はぁっ」と堪らない吐息を漏らしてしまった。
「なんだよ、名前呼ばれただけで嬉しそうにして……」
のぼせたせいか、顔が熱い。
早く寝てしまおう。今度こそ、眠りに落ちてやると、ふかふかの新しい布団に飛び込んで、眼を閉じた月は、あっという間に睡魔に襲われ夢の中に旅立った。
――翌朝のことだ。
すっかり熟睡してしまったため、随分と長い時間寝ていたらしく、起き上がって伸びをすると、ぐーんと意識が広がる感覚がした。
のそりと起き上がり、洋間のドアを開くまえに、月は一呼吸整えた。
昨日のことがすっかり夢幻ならば、それでいい。しかし、このドアを開けて乾太郎が居たならば……。
それはこれから先、まるで未知数な未来が待ち受ける生活が始まることを意味しているのだ。
願わくば――。
(願わくば……どっちがいいんだろう)
貧乏神に憑りつかれて貧乏まっしぐらなんて絶対に勘弁願いたい。そういう意味では昨夜のことなんて夢であればいいと思いたい。
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