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鬼の求婚
「ううん……」
朦朧とする意識が、まるで重りでも付けられているみたいに感じられた。
自分が眠っていたのだと分かって、瞼を開こうとしても、粘つく糸で絡めとられているようで、倦怠感が月の全てを支配しているようだった。
「月さんっ!」
「……う? ……あ……、奈和さん?」
自分の名前を呼びかけられたことで、意識が覚醒に向かい、月はぐったりとした表情で目を薄く開くと、そこには今にも泣きだしそうな顔をしている奈和が居た。
全身に纏わりつく気だるさを無理やり振り払うようにして、肉体に力を入れ、月は起き上がった。
そして、状況に気が付いた。知らない部屋、畳に敷かれた布団に横たわっていたらしく、どれほど時間が経過しているのかはっきりしない。
「良かった……身体の調子は大丈夫ですか?」
「う、うん……、ちょっと力が抜けてる感じするけど……。私、どうなったの?」
「月さんは、マヨヒガの天井絵の『百鬼夜行』を見て、気絶してしまったんです……」
「気絶……、百鬼夜行……」
記憶を手繰り、泥の沼に沈んでいるかのような意識をすくい上げていくと、徐々に月は自分に何が起こったのかを思い出した。
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