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月とて、本音を言えば恐怖に脚が震えてしまう。あの鬼と対峙した時、自分の中に隠された真実を暴いた時、自分がどうなってしまうのか分からない。
だから、誰かが傍に居てくれるのは、言葉では言い表せないほど、嬉しかったのだ。
「ありがとう、奈和さん」
「そんな……私こそ、本当にすみません」
「謝らないで。今は少し分かるんだ。あやかしたちが、酒呑童子に感じる恐ろしさを」
酒呑童子の威圧感は、単なるプレッシャーを与えるだけではない。あやかしにとって、マヨヒガの三大妖怪は絶対の存在という感覚が、理解できていた。まるでかつて、自分自身もそれを痛感したことがあるように。
奈和が、その恐怖に圧し潰されて、月を酒呑童子の元に連れて来たことは、どうしようもないことだったのだと、染み入るように分かった。
月は奈和に頷いて、一緒に行こうと恐怖を半分こにした。奈和も月に頷いて、背筋を伸ばした。
月は、寝所の衾を開き、その先にいる酒呑童子の四十万飛燕の元へと向かった。
大きな広間には相変わらず財宝が積み上げられていて、飛燕は尊大な態度で月たちを待ち構えていた。
「目が覚めたか」
「おはよう、って時間じゃないわね」
今はもう黄昏時であった。夕日が差し込む酒呑童子の部屋で、月と奈和は飛燕に向き合った。
「空亡」
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