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「は? 雲母月だけど……」
「月か。肝が据わってるのかバカなだけか。よくも俺にそんな口を利けるもんだ」
「知らないの? 鬼ってのは大抵人間に退治されるものよ。桃太郎、知ってるんでしょ」
飛燕が『鬼ヶ島』を引用してきたので、皮肉で返してやった。月のポリシーである、やられたらやりかえせは、相手に対して臆さない事だ。怯めば一気に噛み殺されるだろう鬼を目の前にして、月は凛とした瞳で立ち向かった。
茜色の夕焼けが、両者の横顔を照らし、紅の世界で確かな緊張感が弾ける。
「月、お前、俺の嫁になれ」
「……は?」
「今夜、早速初夜と行こうぜ。可愛がってやるよ」
「ふざけてんの? 流石に怒るよ」
飛燕はいつもこちらを見下しバカにした態度でいる。下の人間やあやかしのことなど、歯牙にもかけないその様子は月の神経を逆なでするばかりだ。
「いや、本気だ。それが交換条件だ」
「なんですって?」
「俺の女になれよ。そうしたら、空亡のことを教えてやる」
顔は笑っている飛燕だったが、声はどこか芯があった。鋭い刃が一閃したあとの、風を斬り裂くような飛燕の口調に、バカにして言ってるわけではないと分かった。
俺の女になれと言う飛燕は、真に迫ったものだった。
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