鬼の求婚

6/10
前へ
/314ページ
次へ
「は? 雲母月だけど……」 「月か。肝が据わってるのかバカなだけか。よくも俺にそんな口を利けるもんだ」 「知らないの? 鬼ってのは大抵人間に退治されるものよ。桃太郎、知ってるんでしょ」  飛燕が『鬼ヶ島』を引用してきたので、皮肉で返してやった。月のポリシーである、やられたらやりかえせは、相手に対して臆さない事だ。怯めば一気に噛み殺されるだろう鬼を目の前にして、月は凛とした瞳で立ち向かった。  茜色の夕焼けが、両者の横顔を照らし、紅の世界で確かな緊張感が弾ける。 「月、お前、俺の嫁になれ」 「……は?」 「今夜、早速初夜と行こうぜ。可愛がってやるよ」 「ふざけてんの? 流石に怒るよ」  飛燕はいつもこちらを見下しバカにした態度でいる。下の人間やあやかしのことなど、歯牙にもかけないその様子は月の神経を逆なでするばかりだ。 「いや、本気だ。それが交換条件だ」 「なんですって?」 「俺の女になれよ。そうしたら、空亡のことを教えてやる」  顔は笑っている飛燕だったが、声はどこか芯があった。鋭い刃が一閃したあとの、風を斬り裂くような飛燕の口調に、バカにして言ってるわけではないと分かった。  俺の女になれと言う飛燕は、真に迫ったものだった。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

577人が本棚に入れています
本棚に追加