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「さて、まずはどこから教えてやるかね」
「ほ、ほんとに教えてくれるの?」
「おう、だが、覚悟しろ」
腑に落ちないぞ、と怪訝な顔で訊ねた月に、飛燕は恐ろしいほど真面目な顔をしていた。そこにはバカにしたような雰囲気はなく、見下すような気配もない。
むしろ、本当に真実を知る覚悟はあるかと、心配すらしているような眼をしていた。
「ここまで来て、やっぱり聞かないなんて、言えないでしょ」
「そんな甘い覚悟じゃだめだ。月、これはてめぇの命にかかわる話だぜ」
「……」
どうやら、本当にこちらを案じているのか、飛燕は低く、そしてゆっくりとした声で、言い聞かせるように確認してくる。
「聞く。私、どうしても知りたいことがあるの」
胸の中にある、何かの記憶。そしてその中に居る乾太郎の姿。
自分の中の乾太郎に対する恋慕――。初めて会った時から、なぜだか彼とすんなり打ち解けられた心地よさ――。
乾太郎がああも自分に優しくしてくれる理由――。
全ての縁は、空亡にあるはずだと確信していた。
「分かった」
月の目をしっかりと確認し、飛燕は頷いた。
「おい」
そして、部屋の隅にいた奈和に声をかけると、奈和はビクンと跳ね上がって「ハイ!」と素っ頓狂な声を出す。
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