頂門の一針

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「……その話は、俺がてめぇから聞きたかったンだが、どうもまだしっかりと空亡が眼を覚ましたってワケじゃなさそうだな」 「何よ、それじゃあんたも何にも分かってないってこと?」 「俺が知っているのは十年程昔の空亡のことだけだ。その話をすることで、てめぇがしっかりと空亡の記憶を取り戻すことを期待してる」  ズキズキと痛む頭の中に、何かの記憶が封じられているのは月も分かっていた。この痛みは、その記憶に触れることを本能的に拒否しているのかもしれない。 「随分、空亡のことに執着してるみたいね」 「空亡は、最強の妖怪としての資質を秘めているあやかしだからな」 「最強って……そんな子供じみた表現、ほんとに耳にするとは思わなかった」 「冗談みてぇに聞こえるかもしれねぇが、冗談だったら俺もここまで気にかけることはなかった」 「じゃあ、なに? 私の真の姿はこの世界で最強の能力を持った妖怪で、その力に目覚めて異能力バトルでもやらせるっての?」  まるでラノベだ。  あまりにも陳腐さに、最早ギャグにしか聞こえない。 「おもしれぇこと言うなァ、月。そういう方向なら、俺は寧ろ喜んで空亡をねじ伏せるぜ」  カラカラと面白そうに笑う飛燕は、まるで少年みたいだった。     
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