頂門の一針

3/7
前へ
/314ページ
次へ
「空亡は、別に凄まじい能力を持ったあやかしってわけじゃない。見た目は単なる小娘だった。腕力も神通力もまるでない、まさに赤子のようなあやかしだった」 「……じゃあ、何が最強だっていうの?」 「空亡の強さってのは……」  飛燕が、空亡の核心を語ろうとした時だった。  不意に、何やら外が騒がしくなった。ガタガタ、ドタバタと何者かがけたたましくこの部屋に近づいてくる。刹那に、男の怒号が上がった。 「ここをどこだと思っている!」 「どけッ! 酒呑童子以外に相手をするつもりはないッ!」  月はその声にはっとして立ち上がった。  そして、同時にガタンと部屋の衾を荒々しく開き現れたのは、乾太郎だった。 「か、かんたろ……!」 「ルナ! 無事か!」 「おうおう、威勢が良いな。貧乏神のォ」  押し入りという様子で現れた乾太郎に、飛燕が面白そうに嗤う。 「雲母月……なかなかイイ女だったぜ」 「酒呑童子……! お前というあやかしはッ!」  一触即発という雰囲気だった。飛燕は明らかに乾太郎を煽っていた。  飛燕からは特になにかされたわけではないが、まるで飛燕は月を弄んだように言葉を吐き出した。  乾太郎がこれまでに見たことがないほどの怒気を孕み、強烈な攻撃の意思を燃え上がらせていた。飛燕も争いを楽しむように、気を膨らませ、鬼の妖気を立ち上らせていく。  月は、すぐさま乾太郎に抱き着いた。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

577人が本棚に入れています
本棚に追加