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「空亡は、別に凄まじい能力を持ったあやかしってわけじゃない。見た目は単なる小娘だった。腕力も神通力もまるでない、まさに赤子のようなあやかしだった」
「……じゃあ、何が最強だっていうの?」
「空亡の強さってのは……」
飛燕が、空亡の核心を語ろうとした時だった。
不意に、何やら外が騒がしくなった。ガタガタ、ドタバタと何者かがけたたましくこの部屋に近づいてくる。刹那に、男の怒号が上がった。
「ここをどこだと思っている!」
「どけッ! 酒呑童子以外に相手をするつもりはないッ!」
月はその声にはっとして立ち上がった。
そして、同時にガタンと部屋の衾を荒々しく開き現れたのは、乾太郎だった。
「か、かんたろ……!」
「ルナ! 無事か!」
「おうおう、威勢が良いな。貧乏神のォ」
押し入りという様子で現れた乾太郎に、飛燕が面白そうに嗤う。
「雲母月……なかなかイイ女だったぜ」
「酒呑童子……! お前というあやかしはッ!」
一触即発という雰囲気だった。飛燕は明らかに乾太郎を煽っていた。
飛燕からは特になにかされたわけではないが、まるで飛燕は月を弄んだように言葉を吐き出した。
乾太郎がこれまでに見たことがないほどの怒気を孕み、強烈な攻撃の意思を燃え上がらせていた。飛燕も争いを楽しむように、気を膨らませ、鬼の妖気を立ち上らせていく。
月は、すぐさま乾太郎に抱き着いた。
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