頂門の一針

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 酒呑童子に歯向かうために、乾太郎はここにやって来たのだ。あやかしの中でも上位に君臨する飛燕に盾突けばただ事では済まされない。あやかしとして、乾太郎がこれからどんな目に合うのか想像もできない。  それが申し訳なくて、でも、真実に近づきたくて、好きな(ひと)のことを知りたくて――。  揺れる心がめちゃくちゃになって感情があふれ出していく。それが涙になって零れていく――。 「それとも、貧乏神のォ。てめぇも狙いは空亡か?」 「ッ!!」 「かんたろ、やっぱり知ってるんだね。空亡のこと……私が、空亡だってこと」 「ル、ルナ……」  乾太郎は揺らいでいた。やはり、乾太郎は最初から空亡を知っていたのだと月は分かった。 「酒呑童子殿、どうかこの場は一度ご容赦下さい」  見かねていた蔵馬が、緊張した声で進言した。 「ど、どうか、私からもお願いいたします」  そう言って蔵馬に続いて頭を下げたのは奈和だった。  乾太郎は何も言わず、飛燕をまだ攻撃的な目で睨みつけている。  飛燕はそんな乾太郎たちを見比べて、立ち上らせていた戦意を鎮め、フン、と鼻を鳴らし座り込んだ。 「興が削がれた。てめぇらみたいな陰気臭い神々のツラァ、こんな晩には見ていたくない。失せな」 「……」 「か、かんたろ……」     
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