頂門の一針

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 飛燕が攻撃態勢を解いたことで、乾太郎も刃を鞘に戻すように、その怒気を押し殺し、月を抱き寄せてから、軽業のように月の脚と背に手を回し、抱き上げた。  自分の身体が乾太郎に抱き上げられたことで、ひゃっと少しだけ驚いた声をだし、月は自分の状況がどうなったのか分からなくなった。  乾太郎が、月を姫を抱くように持ち上げたのだ。その姿を飛燕に見せつけるように。 「ルナは、渡さない」 「ククク、面白れェ。京都の姫を攫った時を思い出すぜ。また会おうぜ、月……」  飛燕は不敵に笑い、乾太郎はくるりと踵を返してその部屋から出た。  お姫様抱っこの月は、乾太郎に抱きかかえられるまま、蔵馬と奈和がついてくるのを確認して、鬼の根城から抜け出した。  空には月が上っていて、冷たい夜風が肌を凍えさせる。  彼に抱かれながら、今の月には、乾太郎の体温が感じられず、そっと見上げた彼の顔もまた、月を見つめてくれなかった。  夜明けの太陽は、まだまだ見えない。
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