例えば君がオレを忘れていても

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例えば君がオレを忘れていても

 住み慣れた家に帰って来ても、まるで気持ちは休まることはなかった。  月は、乾太郎と向き合う形で、リビングで腰かけている。周りには蔵馬と奈和も居てくれたのは少しだけ救いに感じられたが、それもなんだか、乾太郎に対して不誠実な感覚だと、月は何も言葉を吐き出せず、ただ、視線を落としていた。 「……ルナ」  最初に口を開いたのは乾太郎だった。乾太郎は月に何と言って責められるのだろうと委縮していた。 「ごめん」  ――しかし、乾太郎は月を責めるのではなく、自責の念を吐き出すかの如く、奥歯を噛みしめて呟いた。  そんな乾太郎に、月も自分の中にあった罪悪感が一気に膨れ上がった。謝るのは、こちらが先だったと、乾太郎の言葉に、月も謝り返す。 「私の身勝手で、みんなに迷惑をかけたの。乾太郎は、悪くない。私が考えナシだったんだ。……ごめんなさい」  月は、乾太郎だけではなく、一緒に酒呑童子の部屋まで来てくれた蔵馬と奈和にも頭を下げた。 「も、元々は私が、月さんを連れてくるように命じられたことを拒否できなかったのが悪いんです」  奈和も、謝り出して、沈痛な顔を浮かべている。     
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