例えば君がオレを忘れていても

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 部屋の空気が一気に重苦しくなって、沈黙が時間を凍結させるみたいだった。  いたたまれなく思ったのか、そこに一石を投じたのは蔵馬だった。 「とりあえず、お腹空きませんか。せっかく四人も居るんだから、鍋でもつつきながら話すというのはどうかな?」 「鍋って……」  そんな和やかな空気で話すような内容ではない――。  ちょっと場違いな発言をしたことで、止まった空気にひびが入り、静かな世界が流れ始める。  誰が悪いとか、誰のせいだったとか、そんなことを告白しあっても、無駄だと誰もが思っていたのだろう。この場に居る誰もが、他人を責めるつもりなんて微塵もなかったのだから。 「ルナ、空亡のことは、どこまであいつから聞いたんだい?」  努めて穏やかな声で、乾太郎は月に訊ねた。その声色が、取り繕ったものであるのは明白ではあったが、乾太郎の、必死に心に渦巻く感情を抑え込む努力を無駄にしたくもない。  月は、乾太郎の声にそっと、感情を滲ませないような透明な声で返事をする。 「最強の妖怪で、百鬼夜行の最後の夜明けが空亡だってことと――、その空亡は、私自身のことだって話しかしてないよ」 「そうか――」 「かんたろ、私が空亡だって、知ってたんだよね」 「ああ――」     
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