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黄金の黄身に醤油の黒が混ざりこみ、ちらちらと黒のノリが乗っている。なんでもない卵かけご飯ではあるが、月はそれがなんだか特別なものに見えた。
「いただきます」
ぱちんと手を合わせる横で、グラスにお茶を注いだ乾太郎が、それをテーブルに置いてくれた。なんだか至れり尽くせりだった。
「おいしい」
「あはは、ただのTKGだぜー」
「ただのノリTKG」
「TDN・NTKG」
「なんだそれ」
思わず笑みがこぼれた。くだらない会話が朝の静けさのなかで軽く弾む。
独り暮らしって、きっと大変だろうなと覚悟して上京してきたのに、独り暮らしが同居生活になってしまった。しかも家のことをほとんどやってくれる家政婦みたいな同居人と。
「……ねえ、今日からその……貧乏になっていくの?」
「お金が、どんどんなくなっていくよ」
「…………」
「……怖いか?」
「まぁ……怖いって言うか……先行きが見通せなくなるね。不安になる……」
金は天下の回り物という。その金がなくなってしまうと、生活ができない。家賃も払えないし、食べ物を買えない。光熱費も払えないし、交通費もなくなる。正直言って、それがどんどん失われていくと言われたら、不安しかないだろう。
「逃げ出す手立てはある。この部屋を捨てればいいだけだ。キララちゃんはどこにでも行けるし、今のうちから物件を探していれば何とかなるよ」
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