例えば君がオレを忘れていても

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 乾太郎の声には、隠しきれない昏い感情が見えていた。乾太郎が、どれほど、空亡に思い入れを持っているのか、飛燕を憎んでいるのかも伝わるほどだ。 「酒呑童子は……、空亡を恐れたと聞いている。空亡が『最強』であるという話を鵜呑みにしたのだ」 「かんたろ……、四十万飛燕は……最強の話を鵜呑みにしたわけじゃなさそうだったよ。あいつ、本当に空亡はとんでもない力があったって言ってた。……だから、私を欲しがっているみたいなの」  月は、自分と飛燕の間にはその程度の繋がりしかないと証明したくて、きちんとその話を伝えた。乾太郎は、く、と奥歯を一度噛みしめたが、右手で顔を覆い、瞼を下ろして、気持ちを冷静にさせようと呼吸を落ち着かせる。 「ルナ……、あいつに……何もされてないよな」 「さ、されてないよ!」 「本当に……ごめん、ルナ」 「月さん。カデノコが君に真実を打ち明けなかったのには理由があるんだ。もし、君がまた酒呑童子に目を付けられたらと思うと、空亡の話はしないほうがいいと僕とカデノコで話し合っていた」  蔵馬も申し訳ないと頭を下げたが、月も戸惑うばかりだった。 「ねえ……どうして、かんたろと、蔵馬さんは……私の、ううん、空亡のことを知ってるの? 空亡と知り合いだったの?」     
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