例えば君がオレを忘れていても

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 最強だという生まれたばかりの妖怪を危険視した酒呑童子は、自分の立場を護るために空亡を追放した。その話を聞かされた時、乾太郎はあやかしの大御所ですら、堕落した人間のように権力にあぐらをかき、弱者を踏みつぶすのかと、辟易したようだ。 「オレが酒呑童子を憎んでいるのは、空亡のことがあるからだ。それから、マヨヒガの若手たちは、酒呑童子の機嫌を損ねないようにと内心ビクビクしながら生活をしているんだ」  奈和が少し顎を引く。耳が痛い話だったのだろう。奈和は、その時にはまだあやかしとして生まれておらず、かつてマヨヒガを追放された幼いあやかしが居たことを耳に挟んでいたくらいだったという。  しかし、「酒呑童子に目を付けられると、あやかしとして生きていけないぞ」と、鴉天狗たちから忠告されたことで、いつも怯えていたらしい。 「じゃあ……どうして、私が空亡だって知ってるの?」 「……」  月の、一番聞きたかった質問だった。乾太郎は少しだけ押し黙ったが、やがて口を開いた。 「ルナ、お前は一度、車に轢かれたことを覚えているかい?」 「えっ……うん。小学校の時……十歳くらいだったかな」  随分酷い事故だったと親も言っていた。月自身はその時の記憶はあいまいだが、一か月以上寝たきりで、辛いリハビリの結果、歩けるようになった記憶があるのは覚えている。     
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