例えば君がオレを忘れていても

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 ソファの隅で丸くなっているサスケの後ろ足を見ると、自分のあのころの記憶が刺激されて、なんだか足の感覚がじんわりしてくるのだ。 「……あの時、本当ならルナは死んでいた」 「ほんと、なの?」 「ああ……。大殺界という、最悪の運勢がついていたんだ……。僕のせいで」  そう言って、会話に入って来たのは、蔵馬だった。  月は、乾太郎から蔵馬に視線を自然に移した。美しい声も、その時だけは震えていた。 「月さん。君は覚えていないだろうが、あの事故の日、君は僕に出逢っているんだ」 「えっ――」 「僕はその日、大きな仕事を終え、膨大な厄を抱えていた。そんな状態で誰かに接触すれば、とんでもない不幸がその人に襲い掛かる」 「まさか……」  蔵馬はぎりぎりと拳を握りしめ、後悔を露骨に表情に浮かべて肩を震わせていた。 「君はあの日、ぼろぼろに疲弊しきった死にかけの空亡を見付け、救おうとした。大人を呼ばなくてはならないと、幼かった月さんは、近くにいた男性に縋りついた……。それが僕だ」  ズキンッ――。 「うっ――」  痛みが脳を突き刺すようだった。心臓を抉るようだった。痛烈な一閃が、月を襲い、記憶が暴れ始める。 「ルナ!?」 「月さんっ」  急に頭を抱え込み、苦しみ始めた月に、三人のあやかしたちは、血相を変えて寄り添うと、身体を支える。     
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