悪縁契り深し

1/11
前へ
/314ページ
次へ

悪縁契り深し

 幼かったあの日、月はとぼとぼと足元を見つめながら歩いていた。  小学校からの帰宅途中、たった一人で歩いている――。それはすなわち、月がクラスで孤立していることを示しているようだった。  月には、『いじめ』というものが良く分からないが、大人たちからすると、月は虐められていると思われてしまう事態になっていたらしい。  孤立した理由は、なんとも下らないことがきっかけだった。  雲母月。その名前が原因だった。  雲母月と書いてある名札を見て、すぐにその名前を読み取れるクラスメートは一人もいない。教師が、月を『キララさん』と呼んだことに、周囲は奇異の眼を向けるのだ。 「キララって名前なの?」 「それって本名?」 「苗字がキララ? 名前がキララ?」 「月って書いてルナなんて、変じゃね?」 「私知ってる、こういう名前、キラキラネームって言うんだよ!」 「だから、キララかぁ! あははは!」 「あははははははは!!」  月本人が何かを仕出かしたとか、迷惑をかけたとか、そういう理由ですらなく、ただただ、その名前の特異さが仇になった。  たちまち、クラスメートからは物笑いの種にされ、名前を呼ばれる度にクスクスと誰かが嗤う。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

577人が本棚に入れています
本棚に追加