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悪縁契り深し
幼かったあの日、月はとぼとぼと足元を見つめながら歩いていた。
小学校からの帰宅途中、たった一人で歩いている――。それはすなわち、月がクラスで孤立していることを示しているようだった。
月には、『いじめ』というものが良く分からないが、大人たちからすると、月は虐められていると思われてしまう事態になっていたらしい。
孤立した理由は、なんとも下らないことがきっかけだった。
雲母月。その名前が原因だった。
雲母月と書いてある名札を見て、すぐにその名前を読み取れるクラスメートは一人もいない。教師が、月を『キララさん』と呼んだことに、周囲は奇異の眼を向けるのだ。
「キララって名前なの?」
「それって本名?」
「苗字がキララ? 名前がキララ?」
「月って書いてルナなんて、変じゃね?」
「私知ってる、こういう名前、キラキラネームって言うんだよ!」
「だから、キララかぁ! あははは!」
「あははははははは!!」
月本人が何かを仕出かしたとか、迷惑をかけたとか、そういう理由ですらなく、ただただ、その名前の特異さが仇になった。
たちまち、クラスメートからは物笑いの種にされ、名前を呼ばれる度にクスクスと誰かが嗤う。
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