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アドバイスのように言った乾太郎の言葉は、まるで血が通っていない音をしていた。
月に出ていって、欲しくないのかもしれない――。
「ご馳走様」
「今日は何か予定があるのかい?」
「特にはないけど、この街を歩き回って、どこに何があるのか知っておこうかなって」
「そっか」
乾太郎が、お茶碗を片付けてシンクで洗い始めるのを見ながら、月はなんとなく聞いてみた。
「かんたろは?」
「ん?」
「用事、ないの? どこかに行くとか」
「オレは、この部屋に憑いてるから基本的にはここ以外には出かけない。でも、この部屋の主の傍に居られるから、もし出かけるとしたら、キララちゃんの傍にいるだけだ」
「ふうん……ついてこないでよ」
「分かったよ。家で留守番してる」
ついてこられて、貧乏神の力が働いたらと思うと、傍に居てほしくないという思いが芽生えていた。
もしかしたら、この家から離れたら、貧乏にならないかもしれないと考えた月は、今日出かけるついでに、実際のところ、この貧乏神の効力というものがどの程度なのかを検証してみようかと、不敵にも思っていた。
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