悪縁契り深し

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 こんな雑木林の影のなか、たった一人で朽ちていこうとしているこの小さな毛玉が憐れに思った。自分の姿がそのままこの毛玉に映ったように思えた。  誰からも認められず、孤独の中で消えていく。終わりを迎える――、それがどれほど辛いものなのか、月は毛玉を見て、痛々しいほど実感していた。  だから、この子を救いたい――。月にとって、毛玉のあやかし崩れは、もう一人の自分のように見えた。 「絶対に助けてあげる! だから、がんばって!」  弱りきり、今にも崩れてしまいそうな毛玉を抱き上げ、月はすっくと立ちあがった。  月の細い腕に抱かれていたあやかし崩れは、その少女が生み出す、『存在してほしい』という意識に反応して、衰弱していた身体に活力が戻るのを感じ、真っ黒な身体を動かした。 「どうしたの? 大丈夫? 痛いとこ、ある?」  毛玉を抱き上げたことで、どこか傷にでも触れてしまったかと心配した月は、毛玉を抱く腕をできるだけやわらかくさせて優しく声をかけると、毛玉はパチパチと目を瞬かせ、月をまじまじと見つめて来た。 「……どうして、たすけてくれるの?」 「あ、あなた、しゃべることができるんだ?」  思いがけずに、口を利いた毛玉に、月は驚きの声を零していた。しかし、か細いその声は、息苦しそうで今にも吹き飛んでしまいそうな儚さがある。     
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