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でも、だから何だって言うのだろう。聞きなれていない名前だとして、それとこの毛玉の心のなかにどれほどの関係性があるんだろう。誰かが付けたレッテルを見て、相手のことを判断するような浅はかな人間にはなりたくない。月はそんな風に思った。
名前なんて、飾りでしかない。月は奇妙なしゃべる毛玉という未知の存在であろうとも、孤独に震えている気持ちは一緒なんだと分かったから、ソラナキと名乗った毛玉を優しく撫でてあげた。
「いい子、いい子」
「……」
毛玉は、月に撫でられて、まん丸な目をきゅ、と瞑って、恥ずかしそうに身体を揺すっている。
「私は、あなたに、消えてほしくないな」
「うぅぅ……、ううう……」
毛玉が震えて、涙を零していた。月の掌の暖かさに撫でられて、消えてしまいそうな身体に熱を分けてもらったようだった。
月の涙と、ソラナキの涙が、一緒になって、はじけた。
孤独を消すことなんて難しいけれど、分かち合うことはできるのだから、ただただ、互いを認め合えばそれでいい。そんな当たり前のことを、二人は実感できて、嬉しくなった。
スゥ――……。
不意に、風に揺れる蝋燭の火のように、毛玉の気配が揺らいだ。月は自分の目を疑って、もう一度自分が抱く黒い毛玉を見つめると、なんと、その毛玉の身体が透明になりかけていた。黒い毛が透き通り、自分の腕がソラナキの身体を通して見えていたのだ。
「えっ?」
「最後に、いい人に逢えてよかったぁ……」
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