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擦れる声は、満足そうに笑ってるみたいだ。
「ま、まって……! うそ、消えちゃう!?」
月は毛玉がどんどん消えかけていくことに狼狽えた。消えてほしくないと願っているのに、ソラナキはどんどんその気配が薄らいでいくではないか。
せっかく友達になれる存在を見付けられたと思ったのに、ソラナキはもう最後の力が残り僅かなのだと示すように、身体が明滅していた。
「やだ、やだ! いかないで!」
「……」
もう、どれだけ呼びかけても、毛玉は言葉を発しない。大きな丸い目も、閉じられて、まるで埃の塊みたいに頼りない存在になっていく。
月は、それがとてつもなく、寂しく、悲しくて、駆け出した。
なんとか、ソラナキを助けたい。これでお別れではあまりにも虚しいと思った。
胸に抱き、月は駆けだした。どこに行けばいいかもわからない。どうやって救えばいいのかもわからない。
でもとにかく、ソラナキを助けたいという気持ちだけが足を動かして、雑木林の中を月は駆ける。
「きみッ! ここは入ってはならない場所だぞ!」
そんな男の声に、ハッとした。
大人の男性の声だ。月がその声の方に顔を向けると、眼鏡をかけた端正な顔をしている若者が立っていた。
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