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この雑木林は親からも立ち入りを禁じられている場所だと知っていたし、入ったことを知られたら、叱られるだろう。
普段だったら、月は自分に注意してくる大人から逃げていたかもしれない。しかし――、今は藁にも縋る思いだった。
「ごめんなさい! たすけてください!」
月は、その男性に駆け寄った。ソラナキを助けてもらいたかったのだ。大人なら、どうすればいいか教えてくれる。ソラナキを病院に連れて行ってくれると思った。
だが、相手の男性は駆け寄る月に「来てはいけないッ」と叫んだ。
月は無我夢中だった。
ソラナキを救いたい。それだけが行動源で、他には何も判断できなかった。男がなぜ、来るなというのかも理解できない。
月にはその男性以外、今は頼れる人が見当たらないから――。
「おねがいです! この子を助けて!」
縋り付いた男性は、月の抱く消えかけのあやかし崩れを見て、ハッとした。
そして、月が自分に想定以上に接近していることに苦悶の表情を浮かべた。
その男、疫病神の蔵馬は、この場は人も立ち寄らぬため、厄流しには最適だと思っていたのに、どういうわけか小さな女の子がそこに居た。
しかもあろうことか、強大な厄を抱え込んでいる自分に縋り付き、あやかし崩れを救ってくれと願うのだ。
こんなことは、想定外にもほどがあった。
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