月が綺麗

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 そっと、乾太郎の頬を撫で、不安そうにしている乾太郎を安心させてあげると、月はゆったりと笑顔を作った。 「ルナ……、空亡のことを無理に思い出す必要はないんだぞ」 「ううん……、私、空亡のこと、きちんと覚えていたい。思い出したの。空亡のことも。昔のことも。私が事故に遭った時のことも」 「そうか……」  どうして、忘れてしまっていたのかは分からない。でも、乾太郎と出会ってから、不思議な懐かしさみたいなものが心の中に生まれているのは気が付いていたし、その感覚が、大事な何かを失くしたままにしていると焦らせてもいた。  その正体が空亡だ。あやかしとして認められなかった哀しみを分かち合った月にとって、あの憐れな空亡を忘れるということは、許されないことだった。 「蔵馬が言っていた。全ては不幸が重なり合った大殺界という最悪の運勢が招いた悲劇だったと。その要因を作ったのは、他でもない蔵馬自身だと。あいつは詫び続けていた」 「私、蔵馬さんを恨んだりしないよ。蔵馬さんは、疫病神としての在り方を営んでいただけ」  蔵馬という疫病神が、毎日街の厄を回収して、人々から距離を取ろうとしているのを知っている。  ストーカーの事件の時も思ったことだ。蔵馬は、優しいあやかしなのだと。 「ね、かんたろ」 「ん?」     
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