貧乏神の能力

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 朝食を終え、支度を済ませた月は、昼前の十時頃、家を出た。律儀に玄関まで見送ってくれた乾太郎に、ひょっとしてついてこないだろうかと、時折後ろを振り返りながら、街を散策し始めた。  月の暮らす街は、都内にあるが都心部からは少しはずれたベッドタウン的なところだ。  駅前は賑わっているが治安もそんなに悪くない。病院だとかスーパーも揃っていて暮らしやすい良い街だった。  都心部への接続もそこまで悪い方じゃないだろう。本当に、最高の住処だと思っていた。貧乏神のことさえなければ。  月はサイフだけは細心の注意を払って大事に抱えて歩き、できるだけ車道沿いを歩かないようにした。ひったくりを警戒したのだ。  街を見て回って、小腹が空いて来た。スマホの画面で時刻を確認すると、昼の十二時半になっていた。  駅前付近には多くの飲食店がある。チェーンのファミレスや、雰囲気のいいイタリアン。サラリーマンが御用達の定食屋などなどだ。  駅前まで戻って食事を摂るかと、来た道をUターンし始めた時だ。その事件は起こった。  ギャアッ。ギュキッ。  耳障りな音が激しく耳朶を打った。  不意に音の方を見ると、車が一台、急ブレーキを踏んだらしくアスファルトを焦がしていた。その車以外は特に走っていない道路はスピードを出すのに最適だったのかもしれない。規定速度よりも早い時速で加速していたのを、タイヤの跡が示していた。     
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